
土佐あかうしの生産者様を訪ねるシリーズ第5弾は、梼原町の津野山畜産公社さんです。
梼原町は、森林面積がほとんどを占め、標高1455mの四国カルストを有する自然豊かな山間の町で、訪れた牛舎も景色のよい山間にありました。
現在牛を約500頭飼われており、割合としては土佐あかうしと土佐黒牛が半数ずつほど。
今回、事務局の秋澤さんにお話を伺い、牛舎を案内していただきました。
- 繁殖・肥育・販売までを一貫して手掛ける
- メンバーは若手が多い
- 業務内容の徹底したデータ化と社内共有
目次
▼土佐あかうし協会チャンネル YouTube動画・全編
無理をさせない育て方・餌の与え方

津野山畜産公社さんの牛を育てる方針として、「できるだけ牛に無理をさせない。ゆっくりとした環境の中で肥育していく」というのを目標にしているそうです。
梼原町の自然豊かな環境の中、四万十川源流の水を与え、夏の間は母牛を四国カルストの高原牧場で放牧してのびのびと過ごさせます。


赤牛は黒牛に比べて重量が増えにくく、重量を増やすことを目指しているそうですが、とにかくずっとたくさん食べさせるわけではなく、成長時期によって与え方を変えられているそうです。
肥育期に入る前の育成期は、脂よりも筋肉質な体に育てます。それは、肥育期に大きく育つよう丈夫でしっかりした体を作るためとのこと。
また、餌は無理に食べさせないこと。餌を無理に食べさせた牛は気持ちが悪そうで、お肉になった際には美味しくないと秋澤さんは考えられているそうです。
また、成長期は筋肉質に育てて肥育した牛は、無駄な脂がつかず、綺麗な細かいサシになるとも言われていました。
(餌は「すごく大事」と語っておられ、その詳細は秘密とのことでした。)
子牛は産まれて2週間経ったら母牛から離し、個別の区画に入れて育てています。
病気や体調にも大変気を遣う時期であり、この時期は人間に懐かせること・食べる癖をつけることを意識されているそうです。臆病な性格になってしまうと後々の成長にも響いていくので、この時期の育成はとても大事とのことでした。
肥育の方針、目指す牛の形
肥育時期の牛舎では、牛たちが寝そべったり座ったり、ゆったりと過ごしており、とても大きく貫禄があるように感じられました。外からのお客さんにも、大きいと驚かれるそうです。
肥育期の牛は、餌を食べた後にすぐ寝てくれるのが理想の状態とのこと。
お昼ぐらいに来たら、牛たちがほぼ寝てるような状況を目指してらっしゃるそうです。
また、成長過程で無理をしてしまった牛は、消化が悪いのか水を飲むなど少し落ち着かない行動をして、動いてカロリーを消費してしまうそうです。


背中の筋肉が膨らみ張ってきている様子
肥育時期の牛の成長具合を確認するポイントの一つとして、背中の盛り上がりを見るそうです。
秋澤さんは「お盆が置けるような」とも例えられていましたが、肥育時期の牛は、背中の筋肉が膨らんできて張り出してきます。そして、しばらくすると膨らんだ筋肉が詰まってくるそうです。しっかりと詰まったら、見た目よりも重量のある枝肉になるとのこと。
生体時に何kgか自分たちで予測し、枝肉になった際に何kgだったかを聞いて、自分たちの目利きの答え合わせや、育て方の見直しもされているそうです。
お肉の販売まで手掛ける津野山畜産公社さんでは、自分たちでお肉を食べたりお客さんの感想を聞く機会が多くあり、育て方や業務の検討にも繋げているそうです。
お肉の味について、意外だったお話がありました。
経産牛を再度肥育して出荷するそうですが、秋澤さんは「経産牛は柔らかくとても美味しい」と話されていました。
経産牛はお肉になると固いというイメージがありましたが、こちらで肥育された経産牛は、柔らかく美味しいお肉になるそうで、おすすめとのことでした。
出産を経験した雌牛のことで、一般的には「お肉が硬い」ため、食肉にはあまり向かないとされるが、近年は見直しもされているそう。
徹底したデータ化と社内共有(若手・少人数で取り組む)

津野山畜産公社さんでの飼育頭数約500頭は、なんと高知県では最多。しかしながら、牛のお世話をされている方は6名ほどで若手の方が多いとのこと。
ベテランのような経験がまだ無い中で仕事の質を上げるため、牛の状態を知るセンサーのほかに、牛の情報・仕事内容などを徹底的にデータ化し、社内の知識や検討材料となるよう取り組まれていました。
津野山畜産公社さんでは、牛が産まれた時からずっと情報を記録しています。
治療歴や餌の内容、どういう風な状況か、注意すべき連絡点など、社内アプリやSNSを活用して全員で記録・共有ができるよう徹底して取り組まれているそうです。
特に気を遣う子牛の時期も、餌の与えた量・残した量をg数で測り、病気や体調など細かく記録し、何かあった際はデータも見直しして対応を判断をするそうです。


肥育されている去勢の牛の牛舎は、通路がやや高くなっており、牛の背中が見えやすくなっています。
もともとは繁殖の牛舎だったそうですが、成長を確認するのにちょうどよいと、肥育時期の牛を入れたそうです。
牛の状態を確認する際に、確認ポイントを絞ることによって、若手も含めた全員で、確認と共有をしやすくなるよう取り組まれていました。
独自の取り組み・始めたこと
餌代が高くなっているとのことで詳しくお伺いすると、令和2年度から餌代の価格はなんと1.7倍に。
ほかの材料なども高くなる中、そのコストをどうやって賄うかというと、コストを削れるところは削り、自分たちでも営業を始めたりと様々な取り組みをされているそうです。


津野山畜産公社さんでは、競り以外でもお肉を販売されることもあるそうです。
また、お客さんの希望に沿って牛を育てるというサービスもされており、放牧や餌の内容など要望を受けて牛を育てているそうです。
私たちが牛舎を訪れた際、臭いがほとんど無いと感じました。
その理由の一つとして秋澤さんは、餌に乳酸菌を添加したものを与えているから、臭いはほかより少ないのかもと話されていました。
おそらく乳酸菌が牛の体調にもよい影響を与え、また堆肥にした際にも臭いが少なく栄養に富むようになっているとのこと。
農家さんにも喜んでもらえるので、牛を育てている時もその後にもよいことばかり。資源の再利用・環境の負荷軽減にも繋がりそうです。
用語ミニ解説
循環型農業
従来の化学肥料や農薬の使用を抑えつつ、使用する資源を循環させて自然環境への負荷を軽減する農業システムのこと。
梼原町という地域と、牛を育てる環境

梼原町は、町の補助金をいただける制度があり、割と手厚いので、新規就農者・若手にとっても始める環境が整っていると、秋澤さんは話されていました。

四国カルストで放牧される牛たち
また、津野山畜産公社さんでは、四国カルストの放牧場で夏の間に地域の繁殖農家さんの牛を預かって育てることもされているそうです。
その間、預けた農家さんは畑や田んぼなどほかの仕事をすることもできるとか。
新規就農に大きなハードルがある中、梼原町には様々な支援があるようです。
土佐あかうしへの想い
昔は赤牛をメインで飼っていたそうですが、一時期赤牛が低迷して価格の追いつかない時期があり、その頃は黒牛を展開していたそうです。
それが10数年ほど前から、県のブランド推進化などで徐々に赤牛の価格も上がっていったので、ここ最近の2・3年頃から津野山畜産公社さんも赤牛を増や始めたそうです。
秋澤さんは、「赤牛の価格が上がってきたこともありますが、土佐あかうしは高知伝統の和牛で、先代の方たちが苦しい時代を乗り越えて繋いできた牛なので、大事に育てて、また次世代に引き継いでいきたい。また、美味しい和牛を育ててみなさんに届けていきたい。」と語られていました。

津野山畜産公社 秋澤さんへインタビュー!

インタビュアー:広報理事 小田雄介(おだち)

自己紹介をお願いします。

津野山畜産公社の秋澤と申します。

今ここで飼ってる牛の頭数を教えてください。

今現在で約500頭の牛を飼育してます。 で、割合としては、繁殖牛が120頭で、肥育牛が大体380頭ぐらいです。

黒牛と赤牛のバランスは?

大体半分半分ぐらいですかね。50パーセント赤牛、50パーセント黒牛。赤牛を増やし始めたのは本当にここ何年か。

元々は黒牛の方が多かったけど、とんとんになってきたと。どんな理由があるんですか?

すごく赤身ブームということで、赤牛の注目度が上がっているところが一つ、と。
あとは、僕自身もそうですけどずっと赤牛の仕事に携わっている中で先代たちが繋いできた牛なので、しっかりと次の世代に繋いでいくためにやっぱり赤牛を大事にしようということで。赤牛を今、積極的に導入している状況です。

赤牛が昔の人から繋いでこられたという伝統の和牛というのも、僕も色々なところ行ったらすごいひしひしとそれを感じるんですけど、それって今の時代と違って大変やったろうなと感じますか?

多分すごく難しい時代だったんだろうなというのがすごく感じますし、やっぱりすごく辛い時期も皆さんご経験されてきて、その中でもやっぱりこだわりを持って、土佐の赤牛というのを絶やさずにやってきていただいている…ということは常に僕も感じているところなので。
僕らとしてもやっぱりそういうところ、想いもそうですけど。
美味しい和牛を、とにかくいろんな人に食べてもらいたい、届けていきたいというところで活動をしています。

改めて、土佐あかうしってどんな和牛だと思います?

そうですね。 和牛の改良的なものでいうと、圧倒的にやはり黒毛和種の方が能力が高い…であるんですけれども、高知独自の牛で、さっき言ったように、昔から飼われていた。見た目もそうですけど、かわいい見た目で。
飼われていた牛というところで…どういった牛かな。
やっぱり色んな皆さんの思いが詰まってて、かつ、今こういうふうな形で全国の人から求められているというのは、ロマンも感じるしすごく大事にしていきたい。

育て方でこだわりというか、どんなことを意識して作られていますか?

そうですね。うちの方では赤牛も黒牛もそうですけど、できるだけ牛に無理をさせないゆっくりとした環境の中で肥育していくというのを目標にしています。 餌の方に関しても、常に色々な餌を吟味しながら試行錯誤して取り組んでいますし、水に関しても、四万十川の源流を直接引いて与えているので。

めっちゃいい水飲んでますね!

はい、すごくこだわりを持ってやるようにしています。

津野山というところは畜産とかあかうしを育てるにおいて、どんなメリット・利点がありますか?

梼原町は、町の補助金もいただける制度があって、新規就農される方とか若手もそうですけど、そういったところでいうと割と補助金とかは手厚くあるので。
牛飼いをまず始めるっていう形になると、割と環境的には整っている部分、地域になります。
それに加えて、うちの方では四国カルストに放牧場もあるので、地域の繁殖農家さんの牛を夏の間、僕らが預かって農家さんの代わりに僕らが育てて、農家さんに返すと。
夏山冬里方式っていうやり方をその昔から取り入れていて、今も続けているんですけども。
夏の間はほかの仕事をしたいとか畑したいとか田んぼの世話したりとか、忙しい時期とかはうちが牛を飼うからねっていう。
他のこともできるので、そういったところでも割と牛を飼うということに関しては、飼いやすい。

保育園的なことですか?預けてそのまま働くみたいな。

そうです、そうです。

それが1日づつじゃなくて、この期間ずっと。

夏の間はずっと。

そんな制度があるんですね。 なるほど、協力してやれる、効率的にやれるようにということですよね。

あとどうですか、昔と比べて技術革新というか。

そうですね。ちょっと10年ぐらい前から比べると、結局デジタル機器であるとかIOTの力がすごく発展してくれているので、そういったところもすごく取り入れて、僕らでいうところのセンサーを取り入れたりとか、ファームノートを取り入れたりとか。
そういうのも運用しながら効率よく、かつ確実に、牛が飼えるような仕組みづくりをしています。

今後何かこういう風な赤牛を作っていきたい…事業や赤牛の質など展望的なところ、どんなことを意識されています?

やっぱり一つは多くのお客さんに食べていただきたいので、できるだけ大きいじゃないですけれども、しっかりとした枝肉の重量がしっかりとのった牛を育てていきたい、というのが一つ。
あとは、赤牛はもともと美味しいという評価をいただいているんですけども、その中でもさらに次はどうしていくか、どういう風な食べ方、どういう風な牛づくり、肉づくりができるかというのをいろいろ模索しながら、もっと次のステージを目指して赤牛をより広めていきたい、追究していきたい、という風には思っています。

販売までされていて、お客さんの反応までしっかり見て、牛が生まれる前からずっと計画を立ててやってらっしゃると思うのですが、全部通してやっていくことの、難しさとこだわりはどういったものでしょうか?

最終的に僕らの仕事は、人様の口に入る、美味しくいただけるまでが僕らの仕事だと思うので。
牛が生まれてからお肉になって、お客さんのところへ届くまで、しっかり全ての観察をしながらやらせていただく。で、そのお客さんからいただいたお声に対して、また、じゃあ次はこういう形にしていこうとかという風な形で。
やっぱり求められるものを作っていくということが、僕らの存在意義に繋がっていると。

なるほど。

そういったところは、すごく難しい部分がたくさんあるんです。
だけども、やっぱり自分たちが何のために牛を飼っているかというのを、常に考えながら行動していこうと。

問題点とか改善したいなと思っていることってありますか?

やっぱりどうにかしたいのは、餌代がすごく上がっているので、できるだけ国産じゃないですけど、自分たちで確保するためにはどうしたらいいかなというのは、常に考えますね。

餌代が上がっているという話をよく聞くんですけど、具体的にはどのくらい上がっているんです?

令和2年度の餌代と比べて、現在の価格で言うと大体1.7倍ぐらい。

え!1.7倍になってるんですか?

大体少なく見積もって。トータルで考えると上がるもの、品種によっては2倍ぐらいになっているものもあったり。大体全部トータルで考えた時にはすごく上がっています。

一番その牛を育てるのに餌代って、すごく大きい部分になると思うので。

大きいですね。ウェイトがすごく大きい部分なので。

餌代が1.7倍になったからといって、お肉代が…

1.7倍になっているわけではないですね。

じゃないですもんね。
他で工夫しているということですか?

そうですね…。やっぱりその、価格の部分は常に難しい部分なんですけども、できるだけかかるコストも下げてやるような努力もしていますけど。やっぱりそれ以上に色んなものの値上がりがすごくあるので。
じゃあどうしたらいいかって考えると、自分たちの売り上げじゃないですけど、牛の単価をいかに1円でも高く売れていくような形のサービスではないですけれども、仕事をしていくという形に今はシフトをしていく、攻めて攻めて。

僕らもその助けになるように、発信とか力を入れていきますので。

ぜひよろしくお願いします。

最後に、土佐あかうしを食べてくださる皆さんに一言いただけますか?

梼原町の四国カルストの下で、土佐あかうし・土佐黒牛を二刀流で飼育をしております。ぜひ、土佐あかうしを今後ともよろしくお願いします。

お願いします!
ありがとうございました!

ありがとうございました!
※インタビューは人柄や空気感を伝えられるよう、できるだけ話し方そのままに近い文章で文字起こしをしております。
インタビュー記事は抜粋内容になります。全編はYouTube動画をぜひご覧ください。
▼土佐あかうし協会チャンネル YouTube動画よりインタビュー抜粋
土佐あかうし協会YouTube動画・全編
秋澤さんは、県内のいろんな農家さんのやり方を見て勉強させていただいたうえで、自分たちのやり方を模索してきて、今のやり方になっていると語られました。前職でも畜産に関わるお仕事をされており、そのためもあってか非常に多角的な分析や考え方をされてらっしゃると感じました。
新規や若手の就農が容易でない中、津野山畜産公社さんが模索されている新しい仕事のやり方に、勝手ながら期待を感じずにはいられませんでした。
用語ミニ解説
経産牛(けいさんぎゅう)