
土佐あかうしの生産者様を訪ねるシリーズ第6弾は、四万十市西土佐江川崎の横山畜産さんです。
横山畜産さんは肥育一本の農家さんで、県内外の共励会・共進会で数々の賞を受賞されています。お話を伺った牧場主の横山さんは若くして家業を継がれたそう。四万十市西土佐江川崎の緑豊かで静かな山奥で、四万十川の綺麗な水を与え、牛を育てています。
黒牛と赤牛が9対1の割合で飼われているおり、黒牛が200頭ほど。牛舎は現在6棟で、これから牛舎を増やす予定だそうです。
- 肥育一本の農家さんで、日々研鑽を積む
- 高知県内や県外で、賞を受賞
- 県外へ買い付けや情報収集にも
目次
▼土佐あかうし協会チャンネル YouTube動画・全編
ポテンシャルを持った子牛を見極める

肥育農家である横山畜産さんは、子牛を購入して肥育していきますが、子牛を購入する値段はここ最近とても高くなっているそうです。
購入してきた貴重な子牛を立派に育てて出荷するには、どんなことに注意すべきなのでしょう。
優秀な子牛を見極めるために、優秀な母牛の遺伝子は非常に重要とのこと。牛の家系図を知っておいて目星をつけ、子牛を買う際に家系図通りの牛が生まれてきてるのかどうかを確認しているそうです。
横山さんは「スポーツ万能の両親、から産まれてくる子はスポーツができる可能性は高い子牛が生まれるけど、必ずしも100パーセントじゃない。その外れの数パーセントは絶対引かないように。」とも例えられていました。
子牛を購入する際は、その血統と、血統通りの体格なのか、無駄な脂がついてないか。見た感じや触ってみて、どのような牛に成長するかを考えて判断するそうです。

横山さんは「肥育は引き算」と考えられているそうです。
子牛が繁殖農家さんで生まれて成長する時期から肥育段階までの過程で、子牛の持つポテンシャルをいかに下げないかが肝要とのこと。
それは、4等級のポテンシャルしかない子牛は、どんな名人が飼っても5等級にはならないということ。ある農家さんが5等級の牛を出荷できている理由は、5等級のポテンシャルを持つ子牛を買ってきて、そのポテンシャルを下げないように育てられているから5等級になると、横山さんは話されていました。
横山さんが、いかに子牛の持つポテンシャルを重要と考えられているかが伺えるお話です。
肥育において、赤牛の特徴と育て方

赤牛は黒牛に比べて小さく、黒牛ほど大きく育てるのは難しいとのこと。競りの場でも赤牛は400kgちょっとの重量が多いそうです。
牛舎に、同じ30ヶ月の飼育期間になる黒牛と赤牛が隣り合わせの区画で並んでいましたが、その大きさの違いが見て取れました。
その赤牛は、赤牛の中でも大きく育っているほうとのことでしたが、黒牛よりも一回り小さい体つきでした。
大きく育てるのが難しい赤牛を、横山さんはどのように育てているかお伺いしました。
横山さんに肥育のポイントをお伺いすると、「しっかり食い込ませること」と。「赤身というジャンルももちろんあると思いますが、食べて食べて、張った牛じゃないと美味しくない。」と、横山さんは語りました。
例えば、過去肺炎にかかり1~2週間薬が効かなくなってしまった牛は、病気の期間だけでなく、後々まで餌の食いが悪く、後々の成長にも響いてしまったそうです。
病気は、早期発見・早期治療がなによりも大事と語られていました。

牛の体調の変化にいち早く気づけるよう、牛の首にはセンサーが付けられています。これは、振動と顔の高さの違いによる気圧で、牛の行動を計るものとのこと。
また、この地域は過去日本一の最高気温がでたこともある地域で、暑さで牛が餌を食べなくならないよう暑熱対策にも力を入れているそうです。
さらに、牛のストレス軽減のため、牛が背中が痒い時に自分で掻けるよう、区画には専用のブラシが設置されていました。
牛がポテンシャルを下げることなく成長できるよう、横山さんは様々な工夫をされています。

横山さんは、「赤牛は3等級が最大のポテンシャル。それにしっかり餌を食べさせたのが美味しい」とのこと。
ただ、2等級・3等級すべてが美味しいということではなく、「5等級になる素質があるかもしれないのに、病気などで引き算されて3等級になってしまった牛は正直言って美味しくない」と考えられているそうです。
しかし、競りで販売される際にその違いを証明することは難しい。それに比べて、4・5等級はほぼ引き算されていないと考えられます。そのため、引き算のされていない3等級を探すよりも、4・5等級を購入するほうが安定して美味しいとも言えるとのことでした。
理想的に仕上がった牛の体形
横山さんが考える、理想的に育った牛のポイントを2点解説していただきました。
まず1点は、筋肉が張って盛り上がったリブロースとサーロイン。しっかりと盛り上がり段ができているほうが、仕上がっているそうです。
横山さんの牛には、首から背中にかけてリブロースが盛り上がり、更に後ろには盛り上がったサーロインの立派な段差ができていました。
近年は、こういった背中がボコボコした筋肉質な牛がよいそうです。


モモにまでサシが十分に入っている状態は、「モモ抜けがよい」と言われ、優れたお肉として取引されます。
横山さんがおっしゃられるには、生体時にお尻(モモ)が張っているほうが良く、しっかりとでているほうが筋肉質で重量があるそうです。
また、モモ抜けのよい育ち方は、「口から一番遠いモモにまで栄養がまわるよう、しっかり食べさせる」とのこと。
枝肉の状態では見えない、モモの内側の状態を見極めるポイント。モモにまでサシが十分に入っている状態は、「モモ抜けがよい」とされ、優れたお肉とされます。
歩留まりとサシの深い関係
お肉の販売店や飲食店など枝肉を買う側にとって、歩留まりは非常に大事ですが、横山さんがおっしゃるには、歩留まりを求めると絶対にサシが必要になってくるとのことでした。
肥育における過程で、歩留まりとサシの関係を説明していただきました。
用語ミニ解説
歩留まり
「原料の投入量に対して実際に得られた出来上がり量の割合」のことです。 例えば牛肉の場合ですと、枝肉(と畜後の骨付き肉)に対して、そこから食用として加工される可食部の割合を指します。
用語ミニ解説
サシ
赤身と赤身との間に、白い脂肪が細かく網目状に入っている状態をサシと呼びます。それがきめ細かく均一に入っているほど、肉質が柔らかく、豊かな風味で上質とされます。
細かくサシの入ったお肉は霜が降りたように見えることから「霜降り」とも呼ばれ、特にリブロースやサーロインなどに多く見られます。
横山さんの肥育牛の育て方としては、前半は筋肉質に育て、後半で脂を入れていくイメージだそうです。
お肉にサシが入る過程を、水風船に例えて解説していただきました。
水風船に水を入れてある程度の大きさになったものを筋肉とし、白い絵の具を溶いたものをサシとして、それを筋肉の水風船に追加していくと中で白くなりながらサシが広がって膨らんでいく。お肉はこのような原理で育つそうです。
サシが入るほど、お肉が膨らんで重量がのってきます。お肉が筋肉だけだと重量がのらないため、歩留まりはよくはならないそうです。
お客様に「サシが入った歩留まりのいい赤身が欲しい」と注文を受けることもあるそうですが、さきほどの原理から、「歩留まりのいい赤身」は作れないとのこと。
もし、2等級・3等級でロース芯の大きいお肉が作れればよいけれど、とも横山さんは言われていました。
赤身の美味しさが特徴とされる土佐あかうしは、重量がでにくいため単純に歩留まりをよくするのはなかなか難しいそうです。
その分、お肉の美味しさを評価して適切な値段で買っていただきたいですね、と横山さんとお話をしていました。
県外との繋がり・情報収集の大切さ

県外にも子牛の買い付けに行かれる横山さんは、県外でも情報収集と情報交換を活発に行っているそうです。飼育ノウハウの改良など技術革新を感じることは多く、情報を取り入れることは必須と考えられているそうです。
インタビュー内でも横山さんは、「古い考えじゃ、今からこの畜産業は生き残れない」と言われていました。
現状について思うこと、これからの展望

今抱えている課題としては、やはり物価の高騰で、餌代・電気代などに経費がかさむことと。どこかにしわ寄せは来るので、生き残りをかけて、頭数が少なくなることもあるかと思いますとのこと。
また、「高知県は他の県に比べて頭数はすごく少ないですが、逆にまだ伸びしろがある。高知県産であることを強みに、若手として飼育頭数の増加に貢献していきたい」と、意欲を見せられていました。
最後に、やりがいについてお伺いしたところ、「やはり食べてもらった方に美味しいと言ってもらえた時が一番やりがいがある。それと、事業の規模も増やしていっているので、子どももまだ小さいけれど、将来やりたいと言ってくれるようになったらいいな」と話されておられました。
横山畜産さんへインタビュー!

インタビュアー:広報理事 小田雄介(おだち)

よろしくお願いします。

よろしくお願いします。

ここの牛舎の規模と、何頭ぐらいの牛を飼われているか教えてください。

株式会社横山畜産と申します。 牛は肥育牛で大体220頭飼っています。そのうち赤牛が大体1割、20頭いるかいないかって感じで飼っていまして。
牛は全部導入、家畜市場から8ヶ月~10ヶ月の子牛を買って、うちで約20ヶ月間飼って、お肉にするまでをやっています

子牛を買うとき、どんな牛を選んでいますか…ポイントとかありますか?

そうですね。一番大事な血統なんですけど、その血統通りの牛なのか、いい特徴が出ているのか、またその飼って出荷する時の20ヶ月後の姿を想像しながら買うようにしています。

肥育の時に…ここは肥育専門ですけど、どういったところがこだわりですか?

責任を持って買ってきた牛なので、一頭一頭最大限の能力を出し切れるよう。
病気することもあるんですけど、早期発見・早期治療で。まず第一にストレスをかけないように一頭一頭しっかり大切に育てることを心がけています。

どんなことでストレスがかかったりするんですか?

そうですね、特に夏場は暑さ、冬は寒暖差に、風邪…またその頑張って餌も食べてもらうので、各栄養素、配分とかを含めて、牛が餌を食べることをストレスと思わないように。 日々、環境から力をもらってしっかり飼うようにしています。

この辺りの地区…西土佐は、標高もあるんですか?

標高はそんな…海抜は80mとかくらいですかね。
何年か前に41度を記録した高知県で一番、日本で一番暑かったところになるので、夏はめちゃくちゃ暑いですね。

うんうん

暑熱対策というのは結構、正直力を入れています。

昔と今で畜産の現場って技術的なところでどんな変化があるのかなとか、進化的なところを教えてほしいです。

そうですね、改良という面では品種改良も進んでいますし、自分たちが飼うこの飼育ノウハウの改良というものもどんどん新しいものが出てきた、添加剤も含めてですね。
AI機能とかでたりとかしてるので、いいものは取り入れて、無駄なものは省いていく。それの繰り返しかなと思います。

毎回というか、常に新しいものをアンテナ張って…。

そうですね、常に勉強というか。
ちょっと古い考えじゃ、今からこの畜産業は生き残れないなと。

なるほど。

理想の赤牛…例えば体型もそうですし、お肉もどんな牛を狙って作っていますか?

そうですね、等級というのも一つあるんですけど、品種改良されているものなので、その牛個体の能力が出し切れた牛というのを作るようには頑張っていますね。

例えば具体的にあります?この部分をこうしたらいいとか競りにでた時にこの部分が…例えばさっき(お話に)出ていた筋間脂肪とかそういう何かサシの入り方とか…。

そうですね。一言で言えば、経済動物なので、買ってもらって…。
まず一番最初のお客さんは、買ってもらった仲卸業者さんとか、精肉店の方だと思うので。その方たちがしっかり利益を残せるような牛づくりというのはまず心がけています。
その先に、もちろん消費者が美味しいと言ってもらうのが一番。
まずは経済動物なので、winwinの関係が築けるのか、後から良かったよと言ってもらえるような牛を作りたいなと思います。

赤牛でももちろんそうですし、黒牛もやっていると思うんですけど。
畜産の、これからの展望とか目標とかどういったものを意識していらっしゃいますか?

うーん。高知県は、他の県に比べて頭羽数がすごく少ないので、逆に言えば、伸びしろがある。

なるほど。

逆に、畜産県…畜産が盛んな県は産業自体は盛んですけど、売るのに困っているという部分もあるので。
高知県産は、高知県でしか作れないのでそこを強みに。
まだまだ若手なので県内の飼育頭数・頭羽数の増移は貢献していきたいなと思っています。

単純になんですけれども、この仕事のやりがいっていつ感じます?

いつ…。けどやっぱり、食べてもらった人に美味しいと言ってもらった時が一番やりがいがあるというのと、やっぱ自分はこうやって規模もちょっとずつ増やしているところなので。
まあ、まだ子どもも小さいですけど、将来やりたいと言ってくれるようになったらいいなと。

そっちも育てながらですよね。

そうですそうです。調教して、はい。

調教して…教育じゃなくて調教して(笑)

これからも美味しい牛を作っていただきたいと思うんですけれども、最後、赤牛を食べてくださる人、食べたい人に一言ちょっといただけますか?

非常に厳しい時代が続くんですけど、我々生産者も一頭一頭、頑張って育てるのでぜひご賞味ください!よろしくお願いします。

ありがとうございます!
※インタビューは人柄や空気感を伝えられるよう、できるだけ話し方そのままに近い文章で文字起こしをしております。
インタビュー記事は抜粋内容になります。全編はYouTube動画をぜひご覧ください。
▼土佐あかうし協会チャンネル YouTube動画よりインタビュー抜粋
土佐あかうし協会YouTube動画・全編
今回横山さんにお話を伺い、お肉の部位や筋肉のつき方・お肉の育ち方など、非常に専門的で肥育専門の農家さんならではのお話を伺うことができました。
生産側だけでなく、お肉を購入する側の方も大変参考になる内容だったかと思います。
農家さんの中ではお若いほうとのことですが、肥育農家として確かに経験を積み、しっかりと勉強・情報収集をして、日々研鑽を積まれている方だなと感じました。
用語ミニ解説
モモ抜け