土佐あかうしの生産者様を訪ねるシリーズ第4弾は、南国市大そね乙の田島牧場さんです。牧場は、南国市の高知龍馬空港・高知大物部キャンパスからほど近く、勾配のある山道をあがった、木々と緑に囲まれた敷地にありました。
生産者の田島さんは、50年前にこの土地で父親が生産を始め、以後受け継いで25年間就農されており、現在約190頭(黒毛和牛が6割、土佐あかうし3割、交雑種1割)を飼育されています。
田島さんは、生産効率を上げるために、人工授精を用いて交雑種の借腹で土佐あかうしの出産を行われていました。
また、土佐あかうしの頭数を増やすためにも、たくさん食べてもらいたい。とのことでした。
目次
牛たちが過ごしやすいよう気を遣っている牛舎
見学に訪れた日は、7月の小雨ながらも暑い日でした。
牛舎は1区画ごとに天井から扇風機が下げられていました。土佐あかうしは牛の中では暑さに強いほうとのことですが、できるだけ乾いた環境にして暑くならないよう気を遣っているそうです。
また、牛舎の足元には吸水性のよい「おがくず」が敷かれています。おがくずがおしっこを吸うので、匂いを抑えてサラサラとした感触で衛生面も良くなり、糞尿などで牛が滑ったりすることも防げるとのこと。
特に出荷前の牛は、滑って怪我をしないよう気を遣っているそうです。(また裂きなどの怪我をすると、内出血して瑕疵となってしまうそうです。)
▼土佐あかうし協会チャンネル、YouTube動画より抜粋。
土佐あかうしの特徴と育て方・黒毛和牛との比較
現在、田島牧場で育てている牛は、黒毛和牛が6割・土佐あかうし3割・交雑種1割です。
黒毛和牛が800~900㎏で出荷されるのに対して、土佐あかうしはそれより約100㎏ほど小さく、お肉になる量も少ないのでその分売値も低くなるとのこと。黒毛和牛のように大きくて短い期間で出荷できる牛を育てた方が経営は安定するのですが、田島さんは土佐あかうしにあわせた育て方をしているそうです。
田島さんは、土佐あかうしを出荷まで約28ヶ月じっくり時間をかけて育てています。出荷までの期間が短いほうが費用面では安くなるのですが、じっくり育てたほうがお肉の旨みが濃くなり、それが土佐あかうしの美味しさに繋がっていると、田島さんは考えています。
国は生産性向上のため出荷日数を早めるような取り組みもしているそうですが、それだと味が落ちるのではないかと…。また、他県の某あかうしは、24ヶ月と期間を短縮して大きく育てることができるらしいのですが、旨味などお肉の味はそこまで濃くならないのではと考えているそうです。
また、ヘルシー志向の高まりもあり、これからの市場では脂の少ないお肉が求められるとも考えているそうです。
新しい技術を取り入れた繁殖
田島さんは、受精卵の移植を扱うことができ、繁殖もされています。
牧場内の交雑種(F1)に土佐あかうしの受精卵を移植して借腹で出産させる方法をとられており、これにより優秀な和牛をコストを抑えて出産させることができるそうです。
一般的な人工授精よりも受胎率が40%と低く、加えてタイミングの見極めなど難しい面もありますが、能力の高い子牛を生産することができます。繁殖の効率化や工夫について、詳しくお伺いしました。
牛は21日周期で発情がありますが、タイミングを逃すとまた21日間待たなければなりません。
田島さんはそのタイミングを逃さないよう、牛の首に発情を知らせるセンサーを取り付けてスマートフォンで確認できる仕組みを取り入れています。
このセンサーは、牛が発情の際によく動くことを利用して、動きから発情を確認できるようになっています。発情のお知らせがスマートフォンにくると、実際に現場で牛を調べ、その日のうちに種付けを済ませます。(例えば、朝に確認して夕方~晩には種付けを行います。)
田島さんは、土佐あかうしの母牛にホルモン剤を打ち、10~50個と通常よりも大量の排卵をしてもらい、そこに精液を入れて受精卵を作っています。
その受精卵を取り出して、牧場内の交雑牛などほかの牛に移植して代理出産を行っているそうです。
出産の時期、田島さんは出産前の牛に分娩センサーをつけ、いち早く出産に気づけるようにしているとのことでした。
膣に分娩センサーをつけていると、破水した際にセンサーが外に落ち、温度が1度下がることによって、分娩を知らせる仕組みになっています。その知らせがスマートフォンに来るため、早く現場に駆け付けられるそうです。
牛舎の天井にはカメラも取り付け、スマートフォンから様子を見られるようにしています。
受精卵の移植は一般的にあまり多くとられる方法ではなく、特に高知ではほとんど行われていないそうです。借腹の牛の出産は1~2回目までで、その後は交雑種の買い手が見つからないことが理由の一つでもあるようです。そこを田島さんは、親戚の精肉店で交雑種として卸すようにして買い取り先を見つけているとのことでした。
▼土佐あかうし協会チャンネル、YouTube動画より抜粋。
土佐あかうしのこれからの課題
田島さんが考える土佐あかうしのこれからの課題は、やはり生産頭数をあげること。生産頭数をあげるためには安定して出荷ができるようにすること、とのこと。
土佐あかうしは、妊娠させて出産まで7ヶ月、出荷まで28~30ヶ月。生産開始から出荷まで合計3年ほどかかるため、3年先も継続的に出荷できる環境が必要になります。
生産者・田島さんへインタビュー!
インタビュアー:広報理事 小田雄介(おだち)
田島さん、自己紹介をお願いします。
南国(高知県南国市)で牛を飼っています、田島です。よろしくお願いします。
何年くらいやってらっしゃるんですか?
私が就農して25年になりますね。
今、何頭くらいここに?
今全部で190頭ぐらいおりますね。黒牛が約6割、赤牛が3割、交雑種が1割ほどいますね。
赤牛って、率直にどんな牛ですか?性格だったりとか。
大人しくて扱いやすい牛ではありますね。黒牛に比べると小さい牛で。
大体黒牛が何キロぐらいで、赤牛が何キロぐらいの差があります?
大体黒牛が800キロから900キロぐらい。赤牛が(それよりも)100キロぐらい小さいですかね。
じゃあ、例えば同じ生産頭数になっても、食べられるところが少なくなってくる…。生産頭数も少ないけど、1頭1頭から取れるお肉も少ない。より希少ですよね。
そうですね、うん。
大体何週ぐらいで出荷になるんですか?
生後28ヶ月ぐらいで出荷する予定にしていますね。
熊本の赤牛と高知の赤牛との違いってどんなところがありますかね?
熊本の赤牛を食べたことがないんですけど、聞いた話では熊本の方は24ヶ月で出荷すると。
4ヶ月早い。4ヶ月って、餌代にしたら相当…。(違いますよね)
だと思いますよね。けど、向こう(熊本)の方が大きくはなるとは聞いたことあるんですけど。けど、4ヶ月も早かったら旨味がどうなのかなと。赤牛は28ヶ月…まあ大体皆さん28ヶ月ぐらいで出すと思うんですけど。やっぱりちゃんと味もあるので、赤身がやっぱり美味しい牛やと思うので。そこのところをやっぱり皆さんに味わってもらえればいいと思います。
赤牛は何を食べているんですか?
配合飼料とわらですね。仕上げの牛は。その2種類になります。 で、子牛の時はもっと栄養価のある牧草を与えて。
その生育の段階で、餌も変わると。
そうですね。
育てる時に、こんなお肉にしたいなっていう想像…そしてそれに対して、工夫とかはありますか?
うーんと、理想の牛…
あ、いいですね!田島さんの理想の牛!
やっぱりお腹がしっかりできている牛。お腹がぐっと大きい牛っていうのは、やはり餌もいっぱい食べるので。肉付きというか、しっかりお肉になる。そういう牛を目指していますね。なので、工夫っていうか、心がけているのは最後までしっかり食べれる牛を作るということですね。
1日でどれぐらい食べます?
赤牛だと8キロ…そうですね、濃厚飼料が8キロぐらいですね。
ということは、1ヶ月に240キロぐらい。3ヶ月違うと750…700キロぐらいの餌分、違ってくるということですね。すごい、8キロ!
そうですね、でも黒の場合は10キロぐらい。交雑種なんて12、3キロくらい。それに比べたら、食べる量は少ないです。
やっていて一番大変なのってどんなところですか?
休みがない(笑)と、やはり1頭1頭生き物なので思ったようにいかないとか、そういうことはありますけど。まあ逆に言うとしっかり育ったらいいものができるので、そこはまあ。
やりがい?
ですね。みんながおいしいって言うてくれるのが一番の喜びですよ。
これからの展望とか、目標ってありますか?
まずは牛を増やしたいかなと思っています。
牛を増やすためにどういうことが僕たちにできますかね?どうしてほしいですか。
価格の安定ですね。
安定しない?
そうですね。時期によったりとか、肉がだぶついている時はちょっとやっぱり。
僕らが安定して、お店で出して、みんなに食べてもらって。安定していけば、作りやすくなっていく…。
そうですね。
だって1頭の牛に28ヶ月かかるので、要はこれからチャレンジしていく牛と、28ヶ月後の世界がどうなっているかで変わるということですもんね。
そうですね。
今みんな赤牛を食べていると思うんですけど、これを見ている人、その方に一言お願いします。
生産者は頑張って作っています。みんな多分、自信ある牛を作っていると思うので、多く食べてください。お願いいたします。
はい!ありがとうございます。
※インタビューは人柄や空気感を伝えられるよう、できるだけ話し方そのままに近い文章で文字起こしをしております。
土佐あかうし協会YouTube動画・全編
取材当日は小雨の降る中でしたが、整備された牛舎は風通しがよく、多数設置された扇風機のせいもあってか心地よい風が吹き渡っていました。
生産者の田島さんは、私たちを笑顔で迎えてくださり、気さくに色々なお話を聞かせていただきました。
近々、高知大学との取り組みで、牛に取り付けている発情センサーに変わるカメラの試験を行うとのこと。
土佐あかうしの生産についての課題を抱えつつも、新しい技術を取り入れながら精力的に生産に取り組まれている印象を受けました。